キャブレター点検

少々細かいですがお付き合いください。
今回はキャブレター点検のお話です。

いつもの福井空港で朝の準備をしていますと、エンジンの暖機運転を行っていたパイロットが
「スロットルを入れたときの吹け上りがなんとなくスムーズでない」と言います。
さて、操作系統など部材どうしの連結状態の問題か、それとも、点火系統あるいは燃料系統でしょうか。

エンジンカバーを開けてスロットルレバーなどの動きをみましたがガタなどはありません。
この機体には燃料と空気を混合するキャブレターが左右に夫々ありますが、双方の動きもちゃんとリンクしています。
しかし、症状からみて怪しいのはどうやら燃料系統のようです。

そうなれば先ず点検すべきはキャブレターです。
キャブレターは、空気の早い流れの中に燃料を吹き、霧状の混合気を作る装置です。

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写真で白く囲ったのがキャブレターです。
操縦席でスロットルを押しますと、スロットルレバー(黄色)が前に回転します。それに連動して空気流路(青線部分)に取り付けられたウチワ状の弁体が回転し、空気流路の面積が広がります。

空気流路には燃料配管が赤線方向に繋がっていて、空気の流れが作る負圧によって燃料が吸い出されます。この燃料と空気とが良い比率に混じり合い、混合器(紫線)となってエンジンのシリンダーに送られます。スロットルが押されて空気量が多くなると吸い出される燃料も増え、沢山の混合気がエンジンに送られて回転数が上がります。

この混合気の作られ方に問題があるのかもしれません。

燃料の供給部にはもう少し工夫があります。
空気量が多くなると吸い出される燃料が増えるのですが、燃料が勢いで出過ぎないように絞る工夫がしてあります。

ここがちょっとややこしいのですが、 できるだけわかり易く書きますね。

燃料配管の出口部分、つまり、燃料配管が空気流路に交わる部分にはヤリ投げのヤリみたいな部品が刺さっています。
これをジェットニードル(以下、ニードル)といいます(下3枚目写真参照)。
ニードルは先端に行くほど細くなっています。
スロットルの操作量が小さい時には、このニードルが燃料配管の奥深くまで刺さっていて、燃料配管の内面とニードルの外面との間に少しだけ隙間が作られています。つまり、流路面積が制限され、空気流の負圧によって燃料が吸われるときでも一定量以上は出ないようになっています。

一方、スロットルが押されると、ニードルが燃料配管から出る方向に動き、燃料配管とニードルとの隙間が大きくなって沢山の燃料が出るようになります。
この結果、エンジン回転数が上がります。

さらにもう一つ仕組みがあります。

このニードルの位置は、空気流路を通過する空気の負圧の程度によって変わります。
ニードルは筒状のピストンに取り付けられており、さらにピストンにはダイアフラムと呼ばれる薄いゴム膜が付けられています。
このゴム膜を挟んで二つの部屋が作られ、片方の部屋の気圧が下がるにつれてそちらにピストンが動き、ニードルが燃料配管から引き出されます。

以下、写真で見てみます。

これは、キャブレターの蓋を外したところです。
蓋を開けますと長いバネが入っています。
バネの下側はピストンの頭を押します。
ピストンの周囲にはダイアフラムがついています。スピーカーのコーンのように見えるやつです。
ダイアフラムの周囲が上の蓋と下のボディーとで挟まれて密封され、上側に負圧室、下側に空気流路が作られます。
負圧室は空気流路の一部とつながっていて、空気量が多くなると負圧が高まってピストンが上に吸われて移動します。
それをバランスさせるように上からバネが押します。このバネは写真のように細く、とても優しい力を出すようになっています。

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ピストンを抜き出しています。
動作慣性が小さくなるようにアルミ製で中空に作られており、とても軽いです。
筒状の外面がガイド面になっていて、本体側の壁面に沿って上下します。

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取り出したピストン一式です。
ダイアフラムは、ピストンが上下に動き易くなるようにたいへん薄いゴムでできています。

ピストンの外観には特に問題はなく、手で動きを確かめましたが引掛りなどはありません。
当たり傷などもありません。

そうしますと、ダイアフラムの周囲の気密性が甘くなっていたのかもしれません。
気密性が損なわれると負圧がしっかりと保持できずピストンの動きにムラが出ます。
取り敢えず、ダイアフラムのつば部分と、蓋およびキャブレター本体の押さえ部分をクリーニングしました。

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それにしてもどうもスッキリしません。
燃料配管の詰まり等も考えましたが、このキャブレターは消耗部品を交換したばかりで異物などの問題は考えられません。

いろいろ考えながらキャブレターの復旧をしておりますと、あれっという感じでちょっと見つけてしまいました。
チョークレバーが完全に戻っていません。

チョークは、エンジンがまだ冷たい時に始動性を高めるため燃料を多く吹く装置です。
これはスロットルとは別系統になっていて、操縦室内でチョークノブを引張って操作します。
チョークを引きますと、先ほどのニードルが刺さっている燃料供給部とは別の個所から燃料が供給されますので、混合気の濃度が全体に濃くなってしまいます。

左の写真がチョークレバーが完全に戻っている正常な状態です。
チョークレバーがストッパに当たっています。

一方、右の写真は今回の状態です。
チョークレバーとストッパとの間に隙間が残っています。

原因は、チョークワイヤーとチョークレバーとの引掛りです。
チョークレバーには写真のように切欠きがありますが、ワイヤーの先端が曲がっていたためにワイヤーが切欠きに引掛かっていました。
写真のように僅かな隙間ですが、内部のチョーク弁は確実に開いています。

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ただ、エンジンの回転ムラが出たのは加速時で、エンジン回転数が高回転のときです。
高速回転時には殆どの燃料がニードル部分から供給されますので、チョークから供給される程度の燃料が影響することは少ないはずです。

やや疑問は残りますが、この部分を正常状態に戻したあと試運転してみました。

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症状は出ませんでした。
チョークを引いた状態にしたり開け閉めしてみましたが特に問題なさそうです。

こういうのってちょっと気持ち悪いですけど、5月の連休明けには耐空検査(車でいう車検)があります。 そのときにまた詳しく点検するので取り敢えず経過観察することにしました。

山崎

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