ベンツW124 エンジンOH (2/10) ヘッド取外し

ヘッドを外す最後の作業です。
ヘッドをシリンダブロックに固定している10本のセットボルトを外します。
ただし、26年前に締められたこのボルトは相当に固着していて大そう固いのです。


このボルトは、ヘッド形状がT55トルクスの12ポイント,12mmです。
実は今回、新品10本を購入することになってしまいました。

整備マニュアルの締め付けトルクでは、最初に55Nmで全数を締め付け、順に90度ずつ2回増し締めせよとなっています。
その結果、締め付けトルクは100Nmを軽く超えると思います。
ということは固着している分、さらに必要トルクは上がるはずです。
因みに、この車のホイールの固定ボルトのトルクが110Nmですから、これよりかは絶対に大きいはずです。

そこで手持ちのトルクレンチの強度セッティングを180Nmにしてみましたが全く緩む気配がありません。
レンチの柄が嫌な感じで撓むだけです。
トルクレンチの設定最大値は200Nmです。
200Nm一杯に設定し直してみたけれども同じでした。

えーっ、どないなっとんねん!

一旦、作業を中断してネットでいろいろと情報を集めます。
インパクトレンチで衝撃的に緩めろとか、ボルトの頭を何度か叩いて固着を外せとか、ボルトを加熱せよとか色々と書かれています。
しかし、ヘッドはアルミ製ですから衝撃や熱は加えたくありません。
一応、インパクトレンチを試してみようと、大阪大学航空部の格納庫まで往復2時間かけて自転車で行き、レンチを借りてきました。
電気式の奴で、巻きばねの付いた軸をモータで巻き上げ、一気に開放して衝撃的に軸を回すタイプです。
しかし全く歯が立ちません。
むなしくこれで1日が終わってしまいました。

その夜、更にネットで調べ、一般的にセットボルトを外す場合には常に苦労するということがわかりました。
総合的にみてレンチの柄を延長するのが良いようです。

次の日、この写真のようにトルクレンチの柄を太いパイプに差し込んで回してみることにしました。



極太のパイプを通してレンチの撓みが伝わってきます。
壊しそうでやめようかなと思いつつもう少し力を入れたところで、バキッという音がして柄が少し回りました。
レンチかボルトが壊れたかと思ったのですが、どうやらボルトが緩んだようです。
さらに柄を回すとボルトが順調に緩み始めました。

ヤレヤレです。

このような緊張が続き、9本のボルトが抜けました。
そして最後のボルトに取り掛かったのですが、期待していた「バキッ」が鳴らずに、無音のグニュという感触がありました。



やってしまいました。

レンチを外してのぞき込むとしっかりとボルトの溝を舐めてしまっています。
試しに再度レンチで回そうとしましたがニュルっと滑るだけです。
こうなるとこのレンチで緩めることは不可能です。

一般的な対処法としては、逆ネジの付いたヘリサートを捻じ込んで抜き方向に回すというのがあります。
ただし、そのためにはヘリサートをねじ込むための孔をボルト中心に開けなくてはなりません。
でも、ヘッドボルトは極めて硬く、しかもボルトの頭はエンジンヘッドの孔の奥ですから、ハンドドリル等では太刀打ちできません。
専用の加工工場に持ち込むにしても車のレッカーが必要です。

色々考えても回答が出ないので、総本山のシュテルンに電話を入れてみました。
質問:「エンジンヘッドのボルトの溝を舐めてしまったのですが、何か対処方法ないでしょうか?」
回答:「セットボルトですか? うーん、ボルトの頭が露出している分には何とかなりますが、奥まった位置にあるとすぐには何ともならないですねえ」

えー、それは大変まずい。
このまま廃車か?

これ以上は作業も進まないので、作業現場を片付け、ネット調査に掛かりました。
しかし、ボルトの頭をグラインダーで飛ばせとか、ボルトの頭にさらに別のボルトを溶接して回せとか、出来そうもない提案しか見つかりません。
しかしですね、粘って時間を掛けると手掛かりは見つかるもので、2時間ほどたった時に、ネジ溝がつぶれたボルトをこれで抜きましたという記事を見つけました。
外観写真しかなかったので、さらに工具の通販サイトなどを探し、アストロプロダクツのロックナットリムーバーに辿り着きました。



各種サイズのコマが四つセットになっています。
右はワンサイズ大きいコマの外観、左は、今回外周を一皮むいた使用コマです。
こいつは内側にテーパーの逆雌ネジが切ってあり、反対側をソケットレンチに固定して回します。
入り口は大径で、奥に行くほど小径になります。
つまり、ボルトの頭に外から逆ネジを食い込ませ、食い込み抵抗がボルトの固着力に勝ったところでボルトを回そうというものです。

これなら行けそうです。
セット価格 2,860円で廃車を免れるかもしれません。
販売先を調べると、超ラッキーなことに自宅から自転車で20分の所に直営店があるではないですか。
そんな店あったんや!
早速、電話で在庫を確認し、直ぐに買いに走りました。

ただし、使うコマの外径がヘッドの孔径よりも2mm大きいため、そのままでは孔に入りません。
ということは外面を削るしかありません。
近所迷惑とは思いながらやかましいグラインダーを20分回して外面を一皮むきました。



肉厚が1mm薄くなったのでコマの見た目が心細いです。
これをボルトの外側に噛ませたときコマが割れるかもと恐れつつ、ボルトに当てて逆ねじ方向にレンチを回します。
次第に回す力が大きくなり、噛み込みが効いていることが分かります。
相当な力が必要になった時、ついに「バキッ」が鳴りました。
コマは壊れておらず、ちゃんとボルトが回っておりました。

グッ ジョブ!

長い二日間でした。
これで作業の続きができます。
廃車にしなくて済みそうです。



抜けたボルトです。
抜けたのはいいのですが、噛み込みが強すぎて、今でもコマがボルトに噛んだまま工具箱に入っています。
そのうち外すことにします。

今回の原因ですが、トルクスの6ポイントの工具を使ったのが間違いでした。
作業前にトルクスT55の6ポイントをホームセンターで買ったのですが、信頼のおけるKTC製の工具だったので何も心配していなかったのです。
12ポイントのビットも無かったですし。
ボルトの溝は12ポイントですが、その意味を、6ポイントの工具を使ったときに嵌め込み角度のピッチが細かくなるから便利だ、ぐらいに軽く考えていました。

アストロプロダクツに行ったときに、T55の12ポイントのビットがあったので、持参した既に抜いたボルトを合わせてみたのですが、ビットがボルトに刺さりません。
よく見ると溝の山がわずかに変形しています。
つまり、本来12か所の溝を使って大きな力でボルトを回すべきところを、半分の6か所だけを使ったものですから、一つの溝に2倍の力が掛かったわけです。
その隣の溝には工具の山がなく空間になっていますから、力を受けた溝が簡単に変形したのです。



買って帰った12ポイント(左)を試しに抜いたボルトに嵌めてみましたが、嵌ったのは左の2本だけで、あとのボルトは溝が変形していてダメでした。

12ポイントを使うべきことを最初から知っていたら2日間を浪費することはなく、また、6ポイントのビットを買うこともなく、さらに、新品のセットボルト10本を買う必要もありませんでした。
因みに、シュテルンから購入したボルトは一本1,500円、KTCのビットは1,200円でした。
これに対してアストロの12ポイントは500円ほど。
知らないというのは恐ろしい。
先のロックナットリムーバーといい、今回はアストロプロダクツ様々です。

こんな感じで作業が想像していたようには進みません。
果たしてこの先上手くいくのでしょうか。

次回は、取り外したヘッドの分解洗浄です。

つづく

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