神戸の師匠

こんにちは
今日は飛行機の話をちょっと中断してまたクルマの話です。

神戸市の御影にフルヴィアート(F社)という旧車のレストアショップがあります。
そこのHPブログに弊所のHPを取り上げて頂きました。

楽しいブログのご紹介

ここの社長様とは私の車を10年前に全塗装して頂いたのがご縁で大変仲良くさせて頂いています。
先日も、強風に煽られた隣の車のドアの直撃を受けまして塗装修理に駆け込みました。
また、社長様は私の時計技術の師匠でもあります。
飛行機ばかりの話もなんですので、少し師匠の話をさせて頂きますね。

10年前、以前に勤めていた特許事務所の同僚の方に、神戸に腕のいい塗装屋さんがいるということを聞きこみまして、冷やかし半分でF社を訪れました。

私のクルマは1994年製の式W124といういわゆるベンツの一つでシルバーメタリックでした。
当時、生産から既に14年が経っていてメタリック塗装に細かなヒビが入り始めていました。

念のために。
このクルマは父親が乗っていたのを、私が弁理士試験に合格したのを機にむりやり取り上げてきたヤツですから、私でも運よく所有者になれたのです。

自分で買ったわけではありませんが、世間で言われるように過剰品質の「最後のメルセデス」ですし、私自身も非常に気に入っていたのでなんとかしたいと思いF社にうかがった次第です。

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当初、全塗装の値段も工期もよくわからいままの訪問だったのですが、聞かされた数字は私の認識の10倍でした。
意識が一瞬遠のいたのを覚えています。

ただ、お話を伺い、工場で作業中のクルマを見せて頂きながら、2時間後にはすっかり納得しておりました。
社長様の「気に入った車を綺麗に塗り替えてあと10年乗るのと、倍ほども高い新車をシブシブ乗るのとどっちがいいと思います?」という殺し文句に止めを刺されてその日のうちに作業をお願いしたのでした。

「工期は約3カ月。でも他の作業との関係でどうなるかわかりません」と極めてアバウトな納期設定でしたが、そのあいだに作業の進捗を見に何度も通い、段々と仕上がっていく様子を見るのはとても楽しく直ぐに終わってしまった感じです。

完成直後の姿です。
「どうせ乗るなら墨絵のような白黒シルバーではなくて、華やかな色にしましょう」という社長様の提案で、カラー見本を見ながら数日悩んだ末の色選択です。
これはこれで自分では気に入っているのですが、ちょっとメルセデスらしい重厚感が薄れています。
やはりメーカーが設定するカラーラインナップは良く吟味されていると思います。

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さて、折角ですので作業工程をいくつか紹介します。
F社のHPにも詳細に書かれていますが、ここでは私のクルマの例を。

私が感じますに、オーナーが満足するにはどうするかというのがF社の基本スタンスです。
限りなく美しく抜群の耐久性 でしょうか。
ですので、例えば塗装する部品は全てバラバラにされます。
その方が裏側の隅々まで塗れますし、塗装がきれいに乗るように好きな姿勢に保持できます。

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F社には専用の塗装ブースがあります。
当然と言えば当然ですが、なかなかここまでのブースを構えておられるショップはありません。
なかなか高額だそうです。
ブースの中には天井照明の他に左右の壁にも照明があって、塗装状態が良く分かるようになっています。
また、床と天井にはグレーチングが嵌めてあって上から下に空気が循環します。
併せて塗装前に床に水を打つことで、塗装作業中にホコリが飛ぶのを防ぎ、余分な塗装ミストを床下から排出します。

これは塗装ブースの入り口です。
入り口の上に大きな循環ダクトが繋がっています。
実車の塗装の他に、休日には社長様の趣味のプラモデルもこのブースで塗装されるそうです。
(メッチャええな!)

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下の写真は、サーフェイサーという色塗装前の下地を作る塗料を吹いて乾かしている様子です。
これが意外に長く、数日から一週間もこのまま放置されます。
放置するほど塗膜が固まりますので、その後の磨き処理の精度が上がるそうです。

サーフェイサーは金属表面の細かな凹凸に入り込み膜となって固まります。
その表面側をできるだけ薄く残しながらピカピカの平滑表面に仕上げます。
ただし、磨き過ぎると下地の金属が出てしまいます。
金属表面は塗膜に比べて凹凸が大きいのでそこに塗装してもツヤのある塗膜ができず、また塗り直しです。
単調な作業ですが、この磨き作業は大変難しいものだと思います。

十分に乾燥させるには場所も取るし納期も延びるし、一般のショップではここまでやらないそうです。
職人気質と言いますか何と言いますか。
おそらく、引き渡しのときのオーナーの「綺麗ですねえ」を楽しみにされておられるのだと思います。

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ボディの下塗りが終わって乾かしている状態です。
塗るのはスプレーガンで一瞬ですが、その前のマスキング作業など準備が大変です。
マスキングし忘れると塗料ミストが入り込んで余計な所が塗られてしまいます。

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下地処理が終わり色塗料を塗り終えたところです。
ブルーメタリックの塗料を何度か重ね、さらにクリアー塗料が上乗せされています。
普段は見えないところまでしっかりと塗られています。
これはつまり見えないところまで一度磨かれているということで、防錆効果も格段にアップします。
クリアー層を厚く塗って頂いたのでしっとり感が違います。

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フロントはこんな感じです。
想像していたのは、実はもう少しシルバーに近い薄い青色でした。
このように大きな面積が塗られると、当初カラー見本で見ていた印象とはかなり違ってきます。
鮮やかさの印象が倍ほど違う青になりましたが、結果的にはこれくらいの方がちょっとハデで良かったです。

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塗装前の調合した塗料です。
塗る前は随分暗く見えます。
私にはこの状態では塗り終わりの印象が全く想像つきませんでした。

気に入った色を塗ったのはいいのですが、この色はどこのショップでも作れるわけではありません。
もし、何かあった場合には、調合データを持ってF社に駆け込むことになります。
ただし、日が経つと塗膜が日焼けするので、同じ調合の塗料を塗っても色は完全には合いません。
その場合には広範囲にぼかしを入れながら色違いの段をなくすように塗装技術でカバーするそうです。

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塗膜も乾き、テールランプなどを取り付けた様子です。
ドアも付いています。
クルマらしくなってきました。

因みに、ドアを付けるといっても、閉めたときにボディーとの隙間が均一になるように正確な位置に取り付けないといけません。
そのためには何度か位置決めしますので、取り付けボルトを締めたり緩めたりします。
しかし、このボルトもブルーで塗られていますので、確実に作業を進めないと、折角塗ったボルトやボディー側の取り付け部の塗装が剥がれてしまいます。
実は塗装以外のそのような作業がまた大変なのです。

このあと他のパーツを取り付け、最初の写真のクルマが完成しました。

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下は、今朝撮った写真です。
このブログを書くことにしましたので、急きょ今朝、フロントの写真を撮りました。
写真でも綺麗ですが、実際も同じくらい綺麗です。
再塗装から10年経ちましたが殆ど劣化していません。
下地処理など見えない部分の作業が効いているのだと思います。
ヘッドライトレンズも綺麗でしょ。
当時のヘッドライトレンズはガラスなので、最近のクルマのように濁ることはありません。

社長様の言われた、好きな車に長く乗ることの嬉しさを改めて実感しております。

最近ではこの型を街で見かけることはあまりなく、ぷちクラシックカーの領域に入ってきました。
ただ、塗装の状態は良いのですが、最近マフラーの劣化が目立ってきました。
その他、天井の内貼りが剥がれて垂れてくるとか、細かな不具合も同時多発的に出てきました。
そんな修理も今後の楽しみではありますが。

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さて、最後にもう一つ紹介を。
飛行機を扱ったハードボイルドものが多い鳴海章さんの小説です。
解説を当フルヴィアートの曽我部社長様が書かれています。

戦争末期に北海道に疎開させたゼロ戦を50年後に復活させるというお話ですが、物語中でその作業を担当する工場がF社なのです。
小説を書くにあたり、鳴海章さんが実際に取材に来られたそうです。
工場建屋の様子など現物そのものですし、各種作業は正にいつも行われているレストア作業です。
ゼロ戦と私のクルマが重なって読めたので大変楽しかったです。
今も書店で売られていますので是非ご一読ください。

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クルマの塗装に限らず、曽我部師匠からは時計の技術も教えて頂きました。

当時、レストア工場の事務所であるのに、そこら辺にあるのは大量の時計でした。
動くモノや動かないものも含めてオークションで入手されたメチャクチャ沢山の時計や部品がありました。
そのうちの一つを頂き、自分で分解組み立てしてみたのが始まりでした。
動きの怪しかったものが見違えるほど元気に動き出したのは感動モノでした。
それ以来、部品の入手方法など沢山教えて頂きながら私も時計にハマってしまいました。

この他にもいろいろとあるのですが、師匠のお人柄などはフルヴィアートのHPでご確認ください。

さて、次回はスチレン機の続きをお話する予定です。

山崎

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