スチレン飛行機 2

こんにちは
スチレン飛行機の第2回目です。

今回は、縦の安定性についてお話しします。
前回、ドラえもん号とスチレン機とでは飛ばし方が違うと説明しました。
両者の違いは、重心位置とそれに関連して決まる翼の取り付け状態の差に表れます。

ドラえもん号はいわゆる前重心です。
下図では、翼のほぼ中心位置から主翼揚力が発生し、それよりも前の赤〇印の位置に全体重心があって、ここに自重が作用している様子を示しています。
このように揚力中心に対して重心が前にあると機体が前のめりになりますので、それを打ち消すように水平尾翼を後ろ上げの状態とし、飛行中の対気によって水平尾翼に下向きの揚力を発生させます。
このタイプの機体では、対気は主翼に対して下面に当たり、水平尾翼に対しては上面に当たります。

飛行姿勢は、自重・主翼揚力・尾翼揚力の三者が釣り合う状態で安定しますので、水平尾翼の上げ方によって対気による尾翼揚力の大きさが変わり、滑空速度等を変えることができます。

例えば、尾翼の上げ方を大きくするほど、少ない速度で必要な尾翼揚力が得られますので、速度が遅く浅い角度の滑空となります。
逆に、尾翼の上げ方を小さくすると、大きな速度でなければ必要な尾翼揚力が得られませんので、速度が速く深い角度の滑空となります。

一方のスチレン機は、揚力中心に対して重心が後ろにあります。
この場合は、尾翼揚力は上向きにしなければなりません。
図に示したように、スチレン機の主翼と水平尾翼はほぼ同一平面内にありますので、滑空時には、共に翼の下面から対気を受けて両翼とも上向きの揚力を発生させます。

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これらの構造の違いによって、両飛行機では飛行中の安定性能が違うものになります。

ドラえもん号では、飛行姿勢のうち特に縦方向の安定性が良くなります。
下図右が正常な滑空状態です。
一定の対気速度のとき、前重心による機首下げモーメントと水平尾翼の下向きモーメントとが釣り合っています。

この状態で例えば風にあおられて機首が下がったとします(真中の増速状態)。
このとき、対気速度が増えますので、主翼・水平尾翼ともに揚力が増えますが、重心より遠い位置にある水平尾翼の揚力増大の効果が顕著になります。
その結果、速やかにテール下げとなり、飛行姿勢が上向きに戻ります。

一方、機首が不意に上向きになると(左の減速状態)、主翼・水平尾翼ともに揚力が減り、重心より遠い水平尾翼の揚力減少が効きますのでテールの押さえが無くなり、前重心によって機首が下がります。

このように前重心の機体には、縦の姿勢変化が速やかに修正されるというメリットがあります。

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これに対してスチレン機では、縦の姿勢変化に対する修正効果が小さくなります。

上図中右の状態が正常滑空状態です。
この状態から機首が下向きになると対気速度が増えますが、主翼・水平尾翼に当たる対気の角度が浅くなりますので、両翼で発生する揚力が小さくなります。
このとき水平尾翼に生じる上向き揚力が小さくなるため、後ろ重心によるテール下げモーメントが勝って速やかにテールが下がるように思えます。
しかし、この増速状態では水平尾翼が矢羽根のように作用して、テールが上にも下にも動きにくくなるのです。
その結果、後ろ重心によるテール下げ効果は少しずつしか発揮されず、正常滑空に戻るのに時間が掛かってしまいます。
垂直上昇機では、上空で上手く滑空状態に移行できないときに地面まで急降下するというリスクが高まります。

一方、機首が上向きとなった図中左の状態では、減速して翼の下面に当たる対気の角度が深くなります。
この状態では、水平尾翼の揚力増大効果が顕著となって比較的早く機首下げ姿勢に変化します。

このよに飛行特性が違う両機の調整ですが、ドラえもん号では主に水平尾翼の上げ角度の調整がメインとなり、垂直上昇機では重心位置の調整が重要となります。

因みに、縦安定を決定する要素の一つに水平尾翼容積というものがあります。
これは、(水平尾翼面積×重心からの水平尾翼揚力中心までの距離)を(主翼面積×主翼平均翼弦長)で割った値ですが、重心位置の値によって水平尾翼容積の適正値が変わります。

一般に水平尾翼が大きいほど、かつ、水平尾翼が主翼から遠いほど縦安定が良くなります。
今回のスチレン機の重心位置は大よそ70%ですが、その場合、尾翼容積は1.2ぐらいが良いとされます。
しかし、このスチレン機の水平尾翼容積は0.83です。
数式だと安定性に欠ける機体となりますが、実際にはあまり気になりません。

そのようにしたのは機体強度を高めるためです。
主翼後方の胴体が長くなると地面に衝突したときに胴体が折れ易くなりますし、特に、小さな子供さんですと胴体を握りしめて振ったりしますので飛ぶ前に胴体が折れてしまいます。
また、水平尾翼に使うスチレンペーパーは軽量化のために1㎜厚ですが、水平尾翼が大きくなると自身が撓み易くなり、ゴムで打ち出した時に変形して真っすぐに飛んでくれません。
このような理由から水平尾翼の大きさや取付位置は経験的に設定しています。

尚、2019年7月1日より 本機の提供を始めました。
航房 YAMASAKI

山崎
あみ知的財産事務所

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