モーターグライダーの耐空検査

こんにちは

先月、モーターグライダーの耐空検査に行って来ました。
今回のはこういう形の機体です。

2017-01-07_15.16.32_NIKON D5500 のコピー

ドイツ シェンプ・ヒルト社製 デュオ・ディスカス といいます。
大野グライダークラブが所有する二人乗りの高性能機です。

翼の長さは20m、滑空比は45もあります。
100km/h以上の速度で巡行するのですが、1m落ちる間に45mも進んでしまう機体です。
エンジンを使わなくてももう殆ど水平飛行ができます。

普通二人乗りといえば一方に教官が乗る練習機であることが多いのですが、これは高性能なクルーザーでしょうか。
長大な翼のおかげで舵の慣性が大変大きく、旋回するにしても競技用単座機のようにスパッとは回りません。
ドドドドッ、グワーーーーン!とやっとこさ回っていく感じです。

沈下率がメチャクチャ少ないので、たとえ弱い風でも上向きに吹いているエリアに入ると高度が上がっていつまでも滞空できてしまいます。

装備品も豪華で、通常の管制機関と交信できるVHF無線機の他に、空港のレーダーに自機の位置を映すトランスポンダも装備していて、セスナとかヘリコプターとか通常の航空機と同じ様相です。

そんなのですから、装備品の操作と操縦を合わせると結構やることが多く、二人で乗ってやっと通常運航できる機体です。

さらに、この機体は背中にエンジンを格納していまして、もし飛行場から遠いところで高度が無くなったら、背中からエンジンを出して高度を上げ、確実に飛行場に帰投できるという優れものです。

さて、その機体が今回も耐空検査の時期となりました。
セスナやヘリコプター、グライダーなど一般の航空機は、年に一回の耐空検査を受けなければなりません。
自動車でいう車検です。
今回は、正月明けに木曽川滑空場で検査を行いました。

耐空検査整備の担は北整備士と山崎整備士

格納庫での整備作業です。
エンジン装備機の場合、整備作業の殆どがエンジン回りです。
全体の清掃・プラグの交換の他、今年は燃料パイプ・燃料フィルターを交換しました。
また、直前のフライトでエンジン回転が不安定との症状が出ていたようですので、念のために燃料ポンプも交換しました。

延べ3日間の整備の後、滑走路に出しまして試験飛行を行いました(最初の写真)。
ウインチ曳航で高度450mで離脱し、直ぐにエンジンを展開してスタートしたのですが、回転が安定しません。
実はこのエンジンには操縦室内から操作できるスロットルレバーがありません。
スロットル開度は一定で勝手に回るだけです。
しかし、仮にグライダーの飛行速度が速過ぎるととエンジンがオーバーレブして壊れますので、丁度よいエンジン回転に収まるように機体の飛行速度を95km/hに合わせます。
しかし、どうしても息付きが激しく上昇率も得られないので、エンジンを格納して着陸しました。

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数人の整備担当者で協議し、2気筒あるエンジンのうち後ろのキャブレターを外してみることにしました。
キャブレターは、ガソリンと空気を丁度良い割合に混合してシリンダーに送り込む装置です。

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これがキャブレターの中に取り付けられているダイヤフラムですが、この穴の開いた銀色のプレートが折れ曲がっていました。
このプレートは薄いゴムに貼り合わせてあって、全体がゴム面となる一方の面が燃料通路を塞いでいます。
反対面はクランク室につながる空間に面していて、ピストンが上下してクランク室の体積が順次変化するとこの空間の圧力が増減します。
つまり、ダイヤフラムが吸われたり戻されたりすることで、燃料通路が開いたり閉まったりするのです。

このようにして適量の燃料がシリンダに送られるわけですが、このプレートが曲がっていたために燃料通路を密閉することができず開きっぱなしになっていました。
そのため後ろシリンダーに燃料が入り過ぎて上手く点火せず、案の定プラグがベチャベチャに湿っていたのでした。
そりゃ上手く回りません。

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早速、ダイヤフラムを新品に交換して再試験を行いました。
今度はOKでした。

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エンジンを回して上昇中です。
高度は2350フィート (約700m)、上昇率1.2m/s です。
計器盤の上に小さなか鏡がありますが、その中に後ろで回っているエンジンが写っています。

また、この日は視程が最高に良い日でした。
高度750mまで上がると富士山が見えました。
長年ここで飛んでいますが初めてです。
かなり小さいですがわかりますか?

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試験飛行は何とか終わりました。
ただ、耐空検査で重要なのはそのあとの書類整理なのです。
日本の航空機は紙で飛ぶと言われます。
毎年沢山の検査書類を航空局に提出しなければなりません。

まあとにかく懸案のトラブルが解消して良かったです。
書類仕事は明日に回すとして、この日は宿舎に帰って取り敢えず宴会となったのでした。

(山崎)

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