オールド RADO の修理 4

こんにちは
今回は清掃作業について二つ紹介します。

一つ目はゼンマイの清掃です。
ゼンマイは香箱という円筒の箱に入っていまして、10~15巻きほどの渦巻きになっています。
ゼンマイの巻き上げと開放に伴って内外に隣り合う部材が擦れますので、ゼンマイ自体が摩耗し、オイルと混ざり合ってオイルの潤滑がなくなってきます。
ゼンマイの清掃間隔はだいたい五年です。

オイルが切れてくるとゼンマイどうしが滑らず、巻き上げが重くなり、また、巻き上げたゼンマイが最後まで開放されず、途中で秒針が止まってしまいます。
古い時計で、巻き上げが重く、秒針が少し動いては止まるというのは殆どがゼンマイが原因です。

さて、香箱を開けてみました。

当然ですがカラカラに乾いています。
ただ、思ったほど汚れてはいません。
ということは、ゼンマイの摩耗も少ないはずです。
中身を取り出してみました。

香箱のサイズと比べるとゼンマイの長さがわかります。
写真の右側が香箱の中心側に来ます。
ゼンマイの自然形状はト音記号のようになっていまして、中心側は自然状態からわざわざ反対側に曲げ直して渦巻き状にします。

そのため、中心側のゼンマイは大きく曲げられることになります。
説明は少し難しいのですが、ト音記号のようにしておくことで、ゼンマイを多く巻き上げたときも少しだけ巻き上げたときも一定の戻し力が出るようになっています。

リューズを巻き上げると、ゼンマイの中心の軸が右回転し、ゼンマイが巻き上げられて中心側に寄ってきます。
中心軸はその状態で固定されますので、ゼンマイの反対の端が止まっている香箱自体が右に回転してゼンマイを解こうとします。
香箱の外周にはご覧のようにギヤが付いていますので、これが下流の歯車に伝わって各針を回します。

ゼンマイと香箱の中をアルコールで洗浄し、香箱の中に巻き戻します。
プロが使う高価なゼンマイ投入機はないので、素手で巻き込みます。
ゼンマイに折れ目をつけないように注意が必要で、この作業が一番苦手です。

巻き込んだゼンマイの側面に粘度の高いオイルをさし、蓋をパッチン止めします。
側面にオイルを塗っておくと、ゼンマイの巻き上げ開放に連れて隙間に浸み込んでいきます。

次は、軸受ルビーの洗浄・注油です。
これは、時計の心臓部であるテンプの軸受けです。

時計の軸受けには摩擦の少ないルビーを使いますが、オイルを溜める二枚組のルビー軸受と、ただ孔が開いている一枚だけのものとがあります。
テンプの軸受けは、通常、二枚組タイプです。
横の黒いのは髪の毛です。
テンプの軸の太さは髪の毛程度しかありません。

この時計のテンプは一秒間に10往復する高振動タイプなのでテンプをスムースに回転させるにはオイルは特に重要です。
軸受は、この図のようになっています。

二枚のルビーの間隔は真ん中で最も狭くなっていて、ここに注入されたオイルが表面張力で中央の孔に寄ってくるようにしてあります。

このような尖ったオイルさしの先にオイルをちょん付けし、孔が無い方のルビーの中央にそっと盛ります。
そこにもう一方の孔あきルビーを被せます。

注油するオイルの適量は、中のオイルの境界線で見ます。
半径の真ん中で色が変わっていますが、ここがオイルの境界です。
この境界がルビーの半径の半分から三分の二の位置になると適量です。
オイルをさし終えた軸受を地板に戻します。

軸受押えはクワガタの角みたいな形をしていまして弾力があります。
ルビーをセットしたら周囲の壁に押えの端を引っ掛けます。

この押えは、時計が揺れてテンプが軸方向に動き、ルビーが突かれたときに、それを柔らかく受け止める効果があります。
この軸受はテンプの軸の両側にあります。

ここまで清掃・注油が終われば次は組み立てです。
どれくらい歯車がスムースに回ってくれるか楽しみです。

次回に続きます

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