ホンダジェット 1

ついに実物を見ることができました。
浄水器や散水器具のメーカーである株式会社タカギ様が導入したホンダジェットです。

タカギ法務課のTさんにご無理をお願いして北九州空港の格納庫におじゃまし、先日、この機体のレーティングを取得されたパイロットのIさんに案内して頂きました。

小型ビジネスジェットの中でも小さいサイズとはいえ、後ろのモーターグライダー・ディモナと比べるとデカいです。
遠くから撮った写真を見るのと違い、真近で見ると、胴体の太さが目にドーンと飛び込んできてかなりグラマラスです。

うわさには聞いていましたが現物を見るととても美しい飛行機です。
例えば板金の波うちの様なものはなく、胴体や翼の表面形状が限りなく滑らかです。
塗装もこれまでの飛行機にはない仕上がりで、自動車の塗装に良くあるモワモワとしたガン肌はありません。
比べるとしたらモーターショーに出すために磨きをかけた展示車のようです。

それでは詳細を見ていきますね。
機体点検の要領に沿って前から左回りに見ていきます。

正面です。

愛嬌のある顔ですね。
キャノピーが金魚鉢のように膨らんでいます。
ノーズの上面はセンター付近でやや凹んでいます。
高速時の空気抵抗が小さくなるように胴体形状は綿密に計算されているそうです。

前の荷物室です。
高空を飛びますので物によってはここには入れられませんね。

オレンジのカバンの向こうには30キロほどのバラストが入っています。
搭乗者数は7名ですが、暫くの訓練飛行では三人搭乗となるため、全体のバランスを取るために前を重くするそうです。

左主翼上面です。

繋ぎ目やリベットがありません。
写真ではわかりませんがアルミ板の削り出しです。
従来の翼のようにジュラルミンの薄板をカーブさせたのではなく、空力特性を出すためにあえてアルミ材を削り出して表面カーブを作っています。

主翼をカーボンなどで作ると軽く強そうですが、本機の場合、エンジンパイロンの取り付け部を設けたり、燃料タンクを入れるために翼を厚くしたり、鳥などと衝突して主翼が凹んだ時の修理の簡単さを考えるとカーボンの利点が生かせずアルミ材の方が良いそうです。

翼端には大きなウイングレットが付いています。

これは、飛行中に翼の下面の高圧の空気が翼端を回って翼上面の低圧部に流れ込み、翼端の後方に渦巻きができるのを防止します。
翼端の後ろにできる渦巻きは誘導効力と言って飛行機が飛ぶためには抵抗になります。
最近の飛行機の多くに付くようになりました。

左のエルロンです。

左右の翼の後縁に付いていて必ず左右交互に動きます。
旋回したいときにエルロンを操作して機体を傾け、希望の角度に傾くとエルロンを中立に戻します。
ですので、飛行機は旋回の初動でハンドルを切り、所定の角度が付いたところでハンドルは中立に戻すのです。
旋回が終わり、水平飛行に戻すときには、またハンドルを切って機体の傾きを直し、水平になったところで中立に戻します。

エルロンの後縁で胴体側に付いているのはタブと言って、言わば微調整用のエルロンです。
聞き忘れたのですが、おそらく自動操縦では大きなエルロンを動かすのではなく、この小さなタブを動かして機体の姿勢を決めるのだと思います。

その内側にNO STEPと書いてあるのはフラップで、着陸時に後ろ下方にスダレのように二段にせり出します。
これにより、低速でも揚力を増やすことができて着陸し易くなります。
フラップはエルロンと違って左右とも同時に下方に動きます。

翼下面です。

エルロンの前にボルテックスジェネレータと呼ばれる小さなフィンが沢山並んでいます。
フィンの角度からすると気流の流れを胴体側に向けたいようですね。
おそらくですが、低速時に翼の下面の空気が翼端側に流れて主翼の揚力発生が損なわれるのを防止するのでしょう。
こうすることで失速し難くなります。

また、その手前の網の入った8つの開口は、翼内を通ってきた暖気を逃がすホールだそうです。
この翼の前縁には銀色(ステンレス?)の部材が使用されていて、内部に着氷防止のための暖気通路が設けてあります。
ここを通ってきた暖気を翼端から逃がすホールのようです。

エルロンの後縁から飛び出しているのは放電用のワイヤーです。
機体が帯電して落雷するのを防止したり、無線機などの作動環境を整えます。

エンジンの取り付け状態です。

これがホンダジェットの最大の特徴ですね。
エンジンと胴体の間に見えるのは、開いた状態にある後部荷物室の扉です。

それまでタブーとされていた翼の上面にエンジンを載せました。
ここにエンジンがあると、客室が広くなり静かになって良いのですが、高速時にエンジンと胴体の間で空気流の干渉が起こり、抵抗がものすごく大きくなるというのが通説でした。

しかし、エンジンに対してエンジンパイロンを外にオフセットし、エンジンパイロンの支柱のカウリング形状を工夫することで、エンジンと胴体の間の空気の流れを整え、機体全体としてはむしろ抵抗が少なくなったそうです。

エンジンのこの位置はまさにスイートスポットで、数センチ左右にずれても抵抗が増大するとのことです。

また、翼の断面形状にも工夫があるそうです。
翼の断面は、前縁が丸く、下面は割とフラットですが上面が上にカーブし、後縁は鋭く尖っています。
従来、翼面形状のデザインは、高速時においても翼の前縁から後縁まで空気が剥離せずに流れるのが良いとされていました。

ちょっと難しいのですが、そうすると高速時に機首下げモーメントが発生します。
翼は前方がやや上向き姿勢となった状態で空気に当たりますので、翼の後縁から離れた空気はやや下向きに流れ去ります。
つまり、その反動で翼は前のめりになろうとするのです。

これを防止するためには、水平尾翼の後縁を上げて、つまりアップ操作をすることでテールを下げ、機体のバランスを保ちます。
しかし、水平尾翼が空気に対してより立った状態となりますので、その分の抵抗が増大します。
美しいと言われる翼形は実は高速での機首下げの欠点がありました。

ホンダジェットでは、この点を改善するために、高速時には翼の後縁で敢えて空気が剥離するデザインにしています。
揚力の発生効果は落ちますが、機首下げ効果を殺すことで高速時の抵抗を大幅に押えました。

ちょっと説明が長くなりました。
まだまだ続きがありますので、今回はひとまずこの辺で。

山崎
あみ知的財産事務所

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