商標セミナー
先日、「はじめての商標出願」と題して無料の商標セミナーを開催しました。
これまでにご依頼頂いた案件は特許が多く、商標の比率はまだまだ少ない状態です。
知財事務所としては、できるだけ各法域についてバランスよく業務を行いたいのですが、弊所のような小規模事務所では、依頼を得ることそのものが容易ではありません。
国内の特許事務所の多くが弁理士一人の所謂一人事務所で、何れの事務所も依頼案件を如何に確保するかが勝負どころです。
弊所も完全にその部類です。
そこで、弊所初の試みとして以下の要領でセミナーをやってみることにしました。
1.準備編
対象は、商標出願を一度自分でやってみたい方 としました。
このビラを500部印刷して、私と所員で数日に分けて近隣のオフィスビルを回りました。
ポスティングの少し上級編で、飛び込み営業というやつです。
何かの記事で、飛び込み営業やテレアポに頼る企業はマーケティング能力に欠けているというのがありましたが、一度は経験しておこうと思いました。
開催日の3週間前から飛び込み営業を開始しました。
その結果ですが、
ビラはとにかく受け取って頂けます。
ただし、95%の方々は最後まで少し警戒されるような顔をされていました。
これは予想された通りです。
だって、私だって立場が逆になればそうなりますもの。
これでは、せっかく配ったビラが無駄になると思い、途中からはブログの記事をアピールすることにしました。
対応される方は殆どが女性です。
ですので、後半のビラ配りにおける締めのセリフは、
「ディズニーランドの結婚式事情なども書いていますのでブログもご覧ください」
となりました。
ディズニーランドの結婚式というのはかなり効き目のある魔法の言葉です。
これを言いますと、皆さん必ず表情が柔らかくなりました。
ということで、少なくともホームページを見て頂くことには成功したのではないかと思います。
飛び込み営業と並行して知財ポータルサイトへのセミナー広告の掲載を依頼し、これまでお取引頂いている会社様にも案内メールを送りました。
その結果、3名の皆様に参加して頂けることになりました。
最悪、参加者ゼロも覚悟していたのでひとまず安心です。
因みに、ビラによる参加者はゼロでした。
2.開催当日編
当日はこのような部内勉強会といった雰囲気で行いました。
商標の定義、法目的、商標の種類、類否判断のポイント、料金、出願書類のひな形などわりと盛沢山でした。
商標についてはいろいろと押さえておくべきポイントがありますが、今回、覚えて頂きたかったのは、類否判断のコツ です。
時々、世間では商標の侵害が問題になりますが、一般の類否の感覚と、裁判所で争われる類否の感覚は実は大きく違います。
裁判所の判断の方が狭いです。
つまり、一見して似ていると思うものでも、判決では非類似となります。
類否判断には、商標どうしの類否の他に、その業界の取引実情を勘案するというのがあって、これが結果に大きく作用するのです。
セミナーでは、その辺りを説明し、最後に練習問題を三つやって頂きました。
1件目は、石屋製菓の白い恋人と、吉本興業の面白い恋人との類否が争われた事件です。
石屋製菓の商標はリボンとハート縁の中に山の写真ですが、吉本興業はリボンと楕円縁の中に大阪城です。
ハットを被ったカップルもいます。
今時、このスタイルで大阪城見物はありませんね。
吉本興業は裁判の途中でデザインを下のリボンなしに改め、関西のみで販売することとしました。
長く争っても吉本興業の宣伝に利するだけとの石屋製菓の判断もあり、この事件は判決に至らず和解となりました。
類否判断ですが、セミナー参加の皆様は、これらのデザインだと買うときに間違えないから非類似、というものでした。
因みに事件の後、両社はコラボ商品として「Laugh&Sweets ゆきどけ」というのを大阪・大丸心斎橋店で販売したそうです。
2件は、以前に弊所のブログでも書きましたフランク三浦事件です。
超高級時計のフランクミュラー社が、登録商標「フランク三浦」は、自社の「フランクミュラー」と似ているから無効であるとの審判を特許庁に請求し、特許庁では無効と判断されました。
因みに、写真右がフランク三浦の完全非防水 Brainbuster で、私の所有物です。
これに対し、フランク三浦側は知財高裁にこの無効判断の取消しを求め、裁判所は特許庁の判断を覆して商標登録は有効と判断しました。
パッと見は似ていますね。
ただし、裁判所の判断は次のようなものでした。
両者の呼び方は似ているけれども、「フランク三浦」は手書き風の片仮名と漢字の組み合わせであるのに対し、「フランクミュラー」は全て片仮名なので外観が異なる。
また、「フランク三浦」は日本人を想像するが、「フランクミュラー」は外国の高級ブランドを想像するから両者の観念も違う。
さらに、時計を買おうとする消費者は両者を間違えない。
さて、セミナー参加者の皆さまの判断ですが、 間違えるはずがなく類似ではない というものでした。
さて、最後はこの事件です。
今年の11月に、兵庫県小野市観光協会が、トンボ鉛筆の「MONO消しゴム」のパロディー版「ONO消しゴム」を2種類1,000個作製し、イベントで販売しようとしました。
MONO消しゴムの青白黒のストライプ柄は2017年に、色彩の登録商標として日本で初登録されています。
製造を受託した業者は「MONO」の字体やケースの色を変えれば問題なく、トンボ鉛筆本社にも確認を取ったとのことだったのですが、実はそのような事前の確認が取られていなかったとのことです。
小野市はイベントでの消しゴム販売を中止し、業者は商品代約13万円を同協会に返金しました。
MONOの登録商標は色彩の組み合わせだけで構成される商標として日本で初めて登録されたものです。
このような商標の登録条件は厳しく、日本ですごく著名になっているようなものにしか認められません。
商品に使うカラーリングはもの凄くバリエーションがありますので、その一部に独占権を与えるためには登録条件が厳格になります。
現に、この登録商標の条件は、
⻘⾊(Pantone 293C)、⽩⾊ (プロセスカラーの組合せC=0,M=0,y=0,K=0)、黒⾊(プロセスカラーの組合せC=0,M=0,Y=0,K=100)であり、配⾊は、上から順に、⻘⾊、⽩⾊、黒⾊が商標の縦幅を3等分している
というものです。
これに対して「ONO消しゴム」のデザインは、色の組み合わせも色の幅も違います。
さて、セミナー参加の皆様の判断ですが、これも、登録条件から見て非類似である というものです。
私も非類似だと思います。
しかしながら、この事件は公に争われたものではありませんので結論はありません。
ただ、しょうもない点ですが、これが販売されようとしたところが少し引っ掛かるのと、同じくらい良く消えるのかどうかが気になりますね。
さて、今回のセミナーではいろいろと収穫がありました。
商標について改めて知識を整理することができました。
大変有難いことに、商標出願のご依頼も一件頂きました。
飛び込み営業の難しさも体験しました。
やり方は変えるかもしれませんが、このようなセミナーは今後も続けていこうと思います。
飛び込み営業の最中に、フィットネスクラブのビラ配りをしていた青年と立ち話をしました。
彼らの仕事の目的は歩行者に如何にビラを受け取ってもらうか、だそうです。
その彼が「コツは笑顔です!」と言っていたのが印象的でした。
山崎
あみ知的財産事務所