フランク三浦
特許庁は商標登録 「時計についてのフランク三浦」 を一旦取り消しましたが、先日4月12日にこれを覆す判決が知財高裁で出されました(平成27年(行ケ)第10219号審決取消請求事件)。
先ずはこの事件の概要を説明します。
先の特許庁では以下の理由により「フランク三浦」が無効だと判断されました。
1.「フランク三浦」と「フランクミュラー」とは,外観上区別できるが、称呼が類似し、著名ブランドである「フランクミュラー」を想起させるから観念上も類似する。 よって、両商標は類似する。
2.「フランクミュラー」は著名であるから、「フランク三浦」を時計に用いた場合には商品の混同が生じるおそれがある。
3.「フランク三浦」の使用者は、「フランクミュラー」の時計を模した商品を製造・販売しているから不正の利益を得る目的などがある。
これに対して知財高裁は次のように判断しました。
1.について
商標の類否は、商品に使用された商標がその外観・観念・称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、具体的な取引状況に基づいても判断すべきである。
「フランク三浦」と「フランクミュラー」とは全体の語感などが似ているから称呼類似である。
しかし、「フランク三浦」は手書き風の片仮名及び漢字を組み合わせており、「フランクミュラー」は全て片仮名であるから外観は異なる。
また、「フランク三浦」は日本人を想像するが、「フランクミュラー」は外国の高級ブランドを想像するから両者の観念が異なる。
本件の場合、具体的取引状況などをみれば両者は非類似である。
2.について
時計の出所を識別するには、商標の外観及び観念も重視されるが、本件の場合、称呼は類似するものの外観・観念が異なる。
時計の需要者などが普通の注意力をもって「フランク三浦」の時計と「フランクミュラー」の時計とを見たとき、両者が一定の業務関係にあると誤信することはなく、両時計の出所を誤認混同するおそれはない。
3.について
不正の利益を得る目的があるか否かは、両商標が非類似である以上、そのような要件に該当するか否かを判断するまでもない。
以上、かなり大雑把にまとめてみました。
私が面白いと思いましたのは、弁理士受験生時代、商標法の問題では、商標の類似について外観・称呼・観念の何れか一つが類似すれば両者は類似すると覚えたのです。
それが、本判決では両商標の称呼は似ていても取引状況などを総合的に判断すると非類似である判示されています。
私もそのように思います。
特に、時計マニアにとっては、遠目で似ていると思っても必ず文字盤の詳細を確認したくなります。
フランク三浦の時計がクォーツ、本家フランクミュラーの時計は機械式ですから秒針の動きが決定的に違います。
また、本物のフランクミュラーを付けていた人をこれまで私は一人しか知りませんので、悲しい性ですが、高級時計を見ると本物かどうか無性に確かめたくなるのです。
そういう意味で、今回のケースは商品の出所混同は起こり得ないものでした。
特許庁としても商標の類否判断に関するこれまでの経緯がありますので、裁判所のように思い切った判断ができなかったのかもしれませんね。
と、かたい話はここまでとしまして、私のブログではこの続きがあります。
以前から、フランク三浦とはどのような時計かを一度確かめたかったのですが、商売柄なかなかそうもいきませんでした。
でも、知財高裁の判決で「フランク三浦」が一応シロの状態になりましたので早速一つ入手してみました。
フランク三浦 六号機(改)マグナム です。
このような箱に入っています。
三浦印をもじったデザインがおかしいですね。
この時計の性格がよく出ていると思います。
取り出してみました。
なかなかそれっぽく見えます。
因みに本物は以下の「COLOR DREAMS」です。
パロディー時計とはいえ、文字盤がちゃんとギョーシェ彫りされていてギザギザ表面になっています。
さすがに本家のような薄いグレーの印字はありませんが、ここはコストが掛かるところではないでしょうか。
また、下のロゴが Brainbuster です。
フランク三浦のHP情報によれば、どうやら天才時計師とされる三浦氏はレスリング愛好家のようです。
http://tensaitokeishi.jp/
両者を別々に見ると違いが分かりにくいですが並べてみると一目瞭然ですね。
価格にして150倍の本家はさすがに各部分のつくりがとてもシャープです。
裏面です。
堂々と「完全非防水」と書かれているところが面白いですね。
裏蓋の表面はしっかりと凹状になっていて腕に良い感じでフィットします。
裏蓋を開けてみました。
4本のネジでとめられています。
これが一番低コストのやり方ですね。
裏蓋をパッチンと嵌める形式もありますが蓋全体に弾性を持たせたりするので寸法設定が難しくなるのです。
裏蓋の周囲には細いですがゴムパッキンがあります。
取説には「ダイビングや水泳に使用されるのは勝手ですが確実に水分が浸入して時計が破壊されます」と書かれています。
パロディのわりにこうしてゴムパッキンが準備されていますとサービス精神旺盛な作者のまじめさが伺えます。
ムーブメントは、MIYOTAのキャリバー2033。
リューズによる時分針の操作感覚はガタもなくしっとりとしていて、さすが日本製です。
中身を取り出してみました。
文字盤の裏に樹脂のベース部品が固定されており、そこにムーブメントが固定されています。
接着剤などが使われていると分解したあとが面倒なのでここまでにしておきました。
針の凹みには蛍光塗料が塗ってあります。
HP情報によれば、塗料が蛍光でないものも混在しているらしく蛍光塗料なら当たりだそうです。
巻き芯は非常に細いですが、各部のエッジがしっかり出ていて機能性はバッチリです。
ケースの内側です。
三浦のHPによりますと、ケースの材質はマジンガーZと同じ超合金であると書かれています。
どうやら亜鉛合金のダイカストですね。
表面にはクローム調のメッキがされています。
ガラスはしっかりと両面カーブに作られ、青いコーティングがされています。
本物の無反射コーティングだったら凄い。
ベルトを取り付けるラグの部分です。
ばね棒を止める孔ですが、外側に穴が貫通しないように内側にだけ加工してあります。
高級時計はこのようなものが多いです。
細かい部分ですが拘りが感じられます。
さて、この時計を実際にはどのような場面で使うかですが、やはり遊びのシーンに限られるのでしょうね。
ただし、使うとなるとムーブメントは日本製クォーツですから時計の精度は大丈夫です。
問題は防水性とメッキの耐久性でしょうか。
ゴムパッキンはありますが、サイズが細く、ケースと裏蓋との間でケースの平面方向に挟む構成です。この場合、裏蓋をネジで絞めてもネジの締め付けに応じてパッキンが縮むものではなく密閉性がやや劣るかもしれません。
ケースと裏蓋の隙間に入った汗や水を止めるには、この隙間にシリコングリスか何かを詰めておくと良いでしょう。
亜鉛合金製のこのシリーズは実は既に生産が終了しています。
今、ネット上では新品在庫の値段が高騰しています。
使ってみたい気もするし、このまま綺麗にとっておきたい気もするし、大変悩んでおります。
山崎
あみ知的財産事務所