GDI パジェロのエンジンオーバーホール 2
続きです。
今回は、クリーニングと組付けです。
シリンダブロックの拡大です。
ピストンは激しく動くものですし、シリンダの壁は常にピストンリングで擦られていますので、カーボンの付着は思ったほどではありません。
シリンダヘッドとの合わせ面等をクリーニングしました。
写真にはありませんが、冷却水が通る孔にゴミが落ちないように、全ての孔に布切れを突っ込んで合わせ面を掃除します。
スクレーパーを使って合わせ面に残ったガスケットの残骸などを除去します。
ここに異物が残っていると、後でシリンダヘッドを取り付けたときに隙間ができ、冷却水やオイルが漏れる原因になります。
ピストン表面が複雑な形になっているのは、燃焼室内に出退するバルブとの干渉を避けるのと、噴射されたガソリンを室内に最適に循環させるためです。
クリーニング前のシリンダヘッドの下面です。
大きい二つの弁が吸気弁、小さい二つの弁が排気弁です。
吸い込むときはできるだけ多くの空気を吸い込みたいのでサイズが大きくなっています。
排気時には排ガスが高圧になっているので小さな弁でも勢いよく排出されます。
カーボンが焼けきれない低温の吸気弁の方が汚れが激しいです。
真中の孔はプラグホール、上の小さな孔が燃料噴射ノズル用です。
弁の比較です。
排気弁に比べて汚れのひどい吸気弁です。
左がクリーニング前、右がカーボン除去が終わった状態です。
カーボンは固まっているので、カッターナイフを使って鉛筆削りの要領で軸や弁に付いたカーボンを削ぎ落します。
そのあと、マジックリンと800番のサンドペーパーを使って表面を軽く磨きます。
ただし、これで終わりではありません。
弁とシリンダヘッドの開口部との密閉度を高めるために弁の摺合せが必要です。
コンパウンドを塗り、弁をシリンダヘッドの孔に押さえ付けながら回転させて密着部を磨きます。弁体の周囲の金属肌が見えてきて光り始めるまで磨きます。
一本の弁のクリーニングには大よそ30分から1時間掛かります。
仕上がった弁を組付けたシリンダヘッドです。
シリンダヘッドの掃除もかなり大変です。
汚れの厚い所は、まず割りばしなどを使って削ぎ落し、ある程度汚れが薄くなったところでマジックリンを吹きかけて溶かし、ブラシで除去します。
片方のシリンダヘッドの掃除だけで約1日~2日掛かります。
シリンダヘッドの上面は、クリーニング前はこんな感じでした。
上列が吸気弁列、下列が排気弁列で、排気弁が取り外された状態です。
中央の吸気孔の汚れがひどかったです。
両方のシリンダヘッドを取り付けました。
夫々のヘッドの中央側には、3本ずつのインジェクタと、各インジェクタに燃料を送る燃料パイプを取り付けました。
この見違えるような白さ。
部品が綺麗になり、形が戻ってくると作業のモチベ―ションも上がります。
さらに弁の端部にバルブリフタを乗せ、さらに2本のカムシャフトを乗せました。
これは単純に置くだけです。
2本のカムシャフトを上から押さえるカムキャップです。
これは裏側です。
カム室で飛び散るオイルが中央の六つの吸気孔と三つのプラグ孔に漏れるのを防ぐために液状ガスケットを塗布してシリンダヘッドに合わせます。
シール性のやや劣る液状ガスケットを使うのは、シールすべき場所が複雑なのでそのようなガスケットを作るのがおそらく面倒なのと、この場所は単に1気圧で、オイルが飛び散るだけなのでそれ程強力な密封性を必要としないからです。
液状ガスケットを塗布したカムキャップを被せました。
これのbeforeは前回の5枚目の写真です。
沢山のボルトで固定しますが、エンジン取り扱いの注意点として、中心側のボルトから固定し、最後に周辺のボルトを固定します。
といいますのは、互いに合わせ面で固定する部品の間にはガスケットを挟み、内部のオイルなどが外に漏れ出ないようにします。
仮に周辺から固定した場合、ガスケットが圧縮されて延びた部分が中央側に逃げ、ガスケットの弛みが生じる結果、中央部での部品同士の密着性が損なわれてしまいます。
なので、ガスケットの延びを中央側から周辺に順に伸ばしながら固定するのです。
また、全ての部品につき取付ボルトの締め付けトルクが規定されているので、ボルトを締める場合には必ずトルクレンチを使います。
さらにロッカーカバーを被せます。
ここにはゴム製のガスケットが用意されており、新品に交換します。
beforeは前回の5枚目の写真です。
ロッカ―カバーを被せました。
ゴムパッキンを潰し過ぎないようにボルトの締め付けトルクはかなり弱いです。
ここまでの状態で両側のバンクを見るとこんな感じです。
復旧作業完成間近です。
随分と白く輝いていて作業者としてはかなり嬉しい感じです。
4本のカムシャフトにカムプーリを取り付けタイミングベルトを掛けます。
一番下に見えるボルトが飛び出した軸がクランクシャフトで、ここから左右のカムプーリに回転力が伝えられます。
タイミングベルトそのものはまだまだ使えるので、外す前に付けておいた合わせマーク通りに取り付けます。
タイミングベルトの掛け方を間違え、山が一つでもズレると、ピストンの上下動と吸排バルブの動きがうまく連動せず適切なエンジン動作が行えません。
また、ピストンにバルブが衝突する可能性も出て来ます。
通常、タイミングベルトは10万キロで交換です。
世間的には大きな出費を伴う一大整備イベントです。
両バンクの上にインテークマニホールドを乗せ、パワステポンプやラジエータファン等を取り付けました。
エンジン配線を行い、ラジエータホースやエアインテーク部品、バッテリーなどを取り付けました。
これでようやく復旧作業が終わりました。
ここまでに掛かった日数が約2ヶ月。
日中も詰めて作業できればもっと短期でできたのでしょうが、週末限定であるうえ全ての週末が使えるわけでもありません。
そもそも作業環境の設定から始めなくてはなりませんでした。
例えば、作業用の蛍光灯をエンジンルームの直上に吊り下げるためにネットで蛍光灯の中古品を購入しました。
格納庫内に部品置き場を設けるために格納中のグライダーを屋外の専用トレーラーに移し、散らかっている格納庫内を整理するのに半日掛かりました。
全てが初めての作業なのでgo stopの繰り返しです。
どの作業も、単に部品を取り外してクリーニングし組み付けるだけでは済みません。
写真にはありませんが、シリンダヘッドからバルブを抜き取るための工具を作ったり、エキゾーストマニホルドに折れ残った3本のボルトをドリルで削り飛ばし、さらにネジをタップ加工する必要もありました。
おかげで、切れが悪くなったドリルの刃を研ぐ要領を覚えました。
燃料を噴射するインジェクタの取付時に交換用のO-リングがないことに気付き、取り寄せに1週間掛かりました。
また、水回りの部品の多くがサビているので、ワイヤーブラシで錆びを落とし防錆処理する必要もありました。
エンジン配線の再結線では、所定のコネクタに届かなくなることがあり、既に取り付けてあるインテークマニホールドの下に配線し直す作業も発生しました。
その他いろいろな無駄な作業を繰り返しつつ何とか完成しました。
バラバラになったエンジンを見て元通りに復元できるか大いに不安になりましたが、やってみると何とかなるものですね。
さて、いよいよエンジン始動です。
上手く回るでしょうか。
山崎
あみ知的財産事務所