GDI パジェロのエンジンオーバーホール3 (完結編)
パジェロのオーバーホール完結編です。
パジェロが止まっているこの場所、何処だかお判りでしょうか。
三菱ディーラーの整備工場です。
そうです、残念ながらエンジン始動しませんでした。
復活を楽しみにやってきた4~5人の航空部員の視線が集中するなか息を止めながらキーを回しました。
セルは回るもののエンジンが始動しません!
エンジンまで燃料が届いていないのだろうと思い、その後、何度もスタートを試みたのですが症状は変わりません。
計器盤の警告灯は灯いていないし原因不明です。
燃料が混合され、適度に圧縮され、火花が飛べばエンジンは回ります。
吸気系、燃料系、電気系の部品や配線の取付状態を確認したのですが特に異常なし。
プラグを1本外に出してみたところ火は飛んでいます。
??? です。
エンジン整備書を改めて見直したりしているうちに部員達も帰ってしまいました。
2~3時間ほどトラブルシュートしましたがこの日は時間切れとなりました。
その後、パジェロの6G74エンジンに関する記事をネット上で探しまくったのですが、それらしい情報が出て来ません。
やはり素人整備には限界があるのかもしれません。
ということで、パジェロの総本山・三菱ディーラーに診断をお願いすることにしました。
さて、阪大の格納庫からディーラーまでパジェロを運ばなければなりません。
レッカーを頼むと費用が掛かります。
取り得る方法は一つ、もう一台の部車で牽引して行くことにしました。
画像はないのですが、牽引には、普段グライダーを曳航する合成繊維ダイニーマ(直径6mm程度)を使いました。
格納庫には使い古しのダイニーマが沢山積んであります。
使い古しですが、もともと1t以上の引張強度を持つロープです。
これを3往復させて計6本の束にしました。
ただ、強度はあるものの全く伸びないので、ロープが張るときにまるでハンマーで叩かれたようにガーンという衝撃がきます。
市販の牽引ロープだと少し伸びるのでしっかり緩衝機能が働くのですが。
停車後の発進の要領は、後ろのパジェロにはブレーキを解除しておいてもらい、前の牽引車がクリープでゆっくりと前進します。
ロープが張りきる辺りで前進速度を緩め、張り合わせを感じたら徐々にアクセルを踏みます。
一旦走り出すと、パジェロは重いので、ダイニーマは張った状態を維持します。
停止時は、牽引車がゆっくりと減速し、パジェロはダイニーマが弛んで自車の前輪で踏まない程度の距離を残して停車します。
こんな調子でハラハラドキドキしながら初の路上牽引が終わりました。
ディーラーだと車のコンピュータに診断装置を繋ぐことで不具合箇所が直ぐにわかります。
数日後に診断結果が出ました。
スロットルボディが悪いとのことです。
スロットル弁が突然全開方向に開いたり、スロットル弁の動きがギクシャクするとのことで、思いもしなかった箇所です。
さすが、ディーラー整備。
スロットルボディ(TB)は、エンジンに空気を送る装置です。
このTBは電子制御式で、通常のアクセルワイヤで動作させるものではありません。
アクセルの踏み込み量を別のアクセルポジションセンサで読み、その信号に基づいてサーボモータを動かしスロットル弁を開閉します。
その後、取り外したTBです。
真中がスロットル弁、その軸の右側がサーボモータです。
さらにスロットル弁の下にはアイドルスピードコントロールバルブ(ISCV)があります。
ISCVは、主にアイドリング時に機能するもので、アイドリング時にはスロットル弁が全閉状態となるため、アイドリングに必要な空気をスロットル弁の手前の孔から向こう側にバイパスさせるものです。
上の写真で、スロットル弁の下側手前の5時と7時の位置に下向きの孔が開いているのが分かるでしょうか。
下の方に図面を示しました。
ディーラーからはTBの交換を勧められました。
22年も前の車なので壊れていても不思議ではありません。
ただ、値段を尋ねますと11万円とのこと。
高そうとは思っていましたが流石に二桁になるとちょっと悩んでしまいます。
一緒に来ていた学生の方を見ると首を横に振っています。
ここまで来たらあともう少しで直るかもしれません。
とにかく不具合箇所が分かったので、クルマを持ち帰ってもう少し頑張ってみることにしました。
予想外の二度目の牽引で再度阪大格納庫へ。
二度目にもなると牽引の腕もかなり上達するものです。
まず、サーボモータを外してみました。
回路基板などはなく、単に回転子とコイルがあるだけです。
コイルの外観は綺麗ですので、焼き切れた様な不具合はありません。
ただし、回転子の両側を支持しているベアリングの動きが固くなっていました。
中央に永久磁石があり、その両側を同じベアリングが支えています。
片方は回転が重く片方はベアリングが割れているのか引掛りを感じます。
ベアリングそのものは汎用品なので新品に打ち換えることにしました。
モノタロウで一個240円で購入しました。
抜くのは道具があれば非常に簡単です。
ホームセンターで売っているプーラーを使って抜きます。
写真のようにプーラーをセットし、中央のネジを右のラチェットで回します。
ネジが回転子の軸端を押し、プーラーの爪がベアリングを手前に引きます。
新品のベアリングは、プラ製のハンマーなどで軸に叩き入れます。
新品ベアリングの回転部分を叩かないようにインナーカラーだけに触れるサイズのラチェットのコマをベアリングに当てるのがコツです。
これも簡単に入れることができました。
これで回転子の回転が非常にスムーズになりました。
次に、アイドルスピードコントロールバルブ(ISCV)を外してみました。
ISCVは上の図の様に、バイパス路の口を開閉するためにスライド移動します。
ピンクのコイルに通電されると磁力が発生し、緑の固定子に黄色の可動子が引き付けられます。
これによりバイパス路が開き、シリンダに空気が送られます。
一方、比較的高回転でエンジンが回っているときはスロットル弁の操作だけで空気量を調節するためバイパス路は閉じられます。
そのためにISCVコイルへの通電が止められ、磁力による吸引から解放された可動子はバネの力によってバイパス路を閉じに行きます。
今回のISCVは、可動子と固定子との間に溜まった汚れで可動子が固着していました。
つまり、バイパス路が常に閉じ状態だったわけです。
スタート時に空気が行かなければ、当然にエンジンは掛かりません。
エンジン分解前に調子が悪かったのはここが一番の原因だったようです。
以前に、緊急に修理を依頼した工場で、洗浄剤をスロットル弁に吹きかけて掃除したと言っていました。
それを真似て、学生も何度か洗浄剤を吹いていたようです。
しかし、実はこれが可動子と固定子との固着を早めたのではないかと思います。
今回、ネット上でスロットルボディの洗浄方法を沢山みましたが、殆どがスロットル弁の掃除で終わっていました。
でも、スロットル弁の汚れはスロットルボディの機能には殆ど影響しないのです。
ISCVを分解掃除しますと、可動子と固定子との間にグリスみたいなものがビッシリと詰まっていました。
埃とオイルと洗浄剤が混じってバターのような固さになっていました。
ということで、サーボモータのベアリングに加えてISCVも掃除し、改めてエンジンをスタートしてみました。
これで復活と思ったのですが現実はそう甘くはありませんでした。
スタート時にISCVが開き、エンジンは掛かるようになりましたが、アイドル回転が2000回転のままで下がってくる気配がありません。
どうやらバイパス路が開きっ放しの感じです。
長年、不調状態で使っていたためにISCVのコイルが故障しているのかもしれません。
コネクタ端子の抵抗値等を測定すると一応は正常だったのですが、このままではどうしようもないので交換部品を探しました。
ネット上でこのISCVを探そうとしましたが全く見つかりません。
そもそもパジェロのスロットルボディASSYが全く出て来ません。
少し後のパジェロミニの交換部品は沢山あるのですが、それより前のGDIエンジンの部品は本当に見つからないのです。
ヤフオクで写真を見ていますとパジェロミニのエンジンについているスロットルボディに同じISCVが付いているようです。
何れも同じ頃のエンジンなので同じISCVを共用していることは十分にあり得ます。
早速、ヤフオクで入手してみました。
左がパジェロのISCV、右が入手したパジェロミニのスロットルボディです。
こちらは機械式で、アクセルワイヤーでスロットル弁を開閉します。
二つのISCVの外見は同じです。
分解してみました。
パジェロミニの方は、可動子の頭に軸が付いていて、バイパス路の開口面積を絞るような構造です。
あとは全く同じに見えたので、可動子だけを取り換えた交換用のISCVをパジェロに移植しました。
セルを回してみます。
緊張するとつい息が止まります。
エンジンが掛かり、アイドリング回転が1000rpmほどで止まります。
その後もアイドリングは安定していました。
振動も少なくスムーズに回転していて良い感じです。
それでは、ということで仕上げのエンジン学習を行いました。
エアコンやライトなど一切の負荷を掛けない状態で10分間アイドリングします。
その間、アイドリングスピードが増減してエンジンが初期状態をリセットしています。
10分後に一旦エンジンを切り、今度は電気系の負荷を高めるためエアコンの温度設定を最低にし風量を最大にして再度10分間アイドリングします。
これで、一応エンジンの初期設定が完了しました。
ようやく復活です。
四カ月掛かりました。
軽い気持ちで分解オーバーホールを始めたのですがなかなか大変でした。
何しろ悪名高いGDIエンジンで、しかもV型、GDIだけに電子制御。
最もハードルの高い所から入ってしまいました。
ただし、要した費用は、部品代・ディーラー工賃が約9万円。
時間は掛かりましたが、学生さんには貢献できたのではないでしょうか。
元々自分の直列4気筒エンジンのオーバーホールをやろうと思っていたところに急きょ飛び込んできた修理でした。
想像以上に大変でしたが非常に良い経験になりました。
この調子でいけば今度はもう少し要領よくやれそうです。
次の作業は正月休みぐらいですかね。
山崎
あみ知的財産事務所